闇を塗り込めた空を舐めるように、炎はなお燃えあがっていた。
火花が爆ぜる。すぐ近くから爆音が聞こえてきた。
何かが誘発したのかもしれない。
しかし今、そんなことはどうでも良かった。
腕の中に抱いた、ただひとりのライバル。
普段なら、ただ自分を逮捕するために、迷いなく見据えてくる眼は、力なく閉ざされていた。
額から、身体から流れ落ちる赤い雫が、生々しく照らされる。
ここに居続ければ、自分にも危険が及ぶかもしれない。しかしそんなことも、今はどうでも良かった。
身体を駆け抜けているのは、ただひとつの感情だった。それは今、現実に駆け抜けている炎よりもずっと、激しく燃え盛っていた。
出会った瞬間から、絡み合った宿命。離すことも切ることも、誰にも出来やしない。出来るとすれば自分かこの男だけだ。そう、本当のケリを着ける瞬間に。
だから今ここに居る人間に、この男の運命を奪う権利はないのだ。絶対に。
――俺は、誰ひとり赦さない。
ルパンはワルサーを真っ直ぐに構えると、口を開いた。
「今ここに居る事を――腹の底から後悔させてやらァ」 |