背景絵特訓大会@記憶喪失警部ネタで全力夢見がちなアレな話(長文注意)


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突然壮絶にあさっての方向に夢みてる押し倒し絵の登場です。
描いてる張本人が一番ビビってるよ。
背景リクで、「警部の記憶喪失。自分の事の赤い人の事もわからん状況ではたして赤い人はどう対応する?」という、どう考えても血肉湧き踊るシチュでもらったので妄想全開で無心で描いてた。
…描いてたんだけど1枚絵でその凄まじい煩悩というか妄想というかを説明するの無理!超無理!という見事に惨敗な結果となったのがこちらの羽虫です。一枚絵って難しいな…
前回昭和の銭湯だったので今回は洋モノいくべ!教会とかそのへんがいいよなやっぱなんかそういう、という実に安易な考えで挑んだんだけど、教会ってなにげに色々と難しいものであふれていたよ。
祭壇側からの資料ってなかなかないもんだねえ…あまりにどうしようもなくて、もういっそ教会じゃなくて寺にしとけばよかったよ!と本末転倒な考えに頭抱えていたよ。
しっかしこれだけじゃ何がなんだか分かんないので、追記に壮絶膨大な補足分と言う名の妄想を連ねておきます。
どこまでもニコイチに夢見る結果となったので、またお前かHAHA!と笑って生暖かく見守ってくれると実にありがたいですトホ。

記憶喪失ものは自分すでにルパン側でやらかしちまってるんだけど、ならば警部もいいよね実際公式がもうやらかしたし(魔法のランプ事件)!!とじつに意気揚々と考えてみたところ、
己の脳内に巣食う赤い人にお前、警部に忘れられたらどうするんと問いかけたところコンマ2秒でそんなん許さねぇヨォと半泣きだったので多分そういうことだろうという結論に達した。
実際あの人警部に以下にかまってもらうかに全力かけて生きてる人だし、万一半身に相当するライバルを失ったらあの人自身の世界が崩壊することも原作外伝が証明している。
なのでとんでもなく恐慌状態に陥るだろうことが予想され、しかも記憶を取り戻させるために手段を選ばない、赤い人本来の野生丸出しで襲ってきそうな気すらする。
欲しいものは必ず手に入れる、それがオレの美学と豪語してやまない。警部の存在は多分赤い人にとって最大の脅威であるとともに手に入れられない最大のお宝でもあるんだと思うわけです。
なにせとっつぁんがいないと仕事にならない泥棒だもんな。あの人仕事の目的がふじこちゃんに貢ぐか警部にちょっかい出すためかの二択しかないんじゃないかって気すらするぞ。
そんな感じの前提で妄想を走らせた警部記憶喪失ネタ。長文注意です。



雷鳴が轟く中、ろくに整備もされていない荒れた細道を、警部はひたすらに走っていました。
乗っていた車はガス欠で乗り捨てざるを得ず、しかし周りは田園風景が連なるばかりで人の気配もしません。
鬱蒼とした森を抜け出し、にわかに広がった視界の中に、小高い丘が飛び込んできました。
その上にぽつんと佇む、古びた教会のシルエット。
雷鳴に誘われるかのように、大きな雨粒が警部の頬を濡らしだしました。
それを無造作に拭い、意を決した警部。
背後から確実に迫ってくる、「殺気」から逃れるために教会へ向かって走り出します。
重々しいドアにぶつかるようにしてこじ開け、中に転がり込んだ警部。
照明が落とされ、人気のない教会の内部はしんと静まり返り、警部の靴音だけが虚しくあたりにこだまします。
何度か、声を張り上げて見たものの応答はなく。
しかし落胆している場合ではない、なんとかしてこの窮地を乗り切るために応援を呼ばなければならない、とあたりを見回す警部。
外部と通信できる手段を求め、広い教会の広間をさまよいます。
広間からつながる石造りの廊下を抜けると、1つ小部屋がありました。結婚式などに控え室として使われるもののようです。
中に入ると、質素なテーブルと椅子が数脚無造作に置かれていました。そしてテーブルの片隅に、年代物と思われるダイヤル式の電話が。
あわてて電話の受話器を握る警部。震える指で、ようやく覚えたICPO管内の自身が一時的に身をおいている部署の番号を一つ一つ確かめるように回していきます。
コール音がワンテンポ遅れて耳に入って来ました。はやく、はやく。祈るような思いで応答を待つ警部。
しかし、突然コール音が途切れます。ぎょっとした警部。もう一度同じ番号を回すも、今度はコール音すらしません。
受話器の向こうは、完全な静寂。
血の気が引く警部。電話線を遮断たれたのだと瞬時に理解し、今自分の身に迫った危険が最悪レベルに達したことを本能的に悟ります。
逃げなければ。
小部屋を飛び出し、唯一の出口である本堂のドアを目指し、もと来た廊下を疾走する警部。
広間にたどり着いた時、確かにしっかりと閉めておいたはずの重厚なドアがわずかに開いて細く長く暗い教会の床に光の線を作っているのが目に飛び込んできました。
…いる。この中の何処かに、「奴」が。
冷水を浴びせられたように背筋が冷たくなる警部。耳が痛くなる静寂の中、自身の荒い吐息だけがやけに耳につきます。
思い出したように懐に手を突っ込み、愛銃であるコルトガバメントを引っ張りだす警部。自分の身を自分自身で守らなければならないと覚悟を決めます。
身をかがめ、そうっと広間を確認するも、雷鳴による逆光のせいか室内は墨を解いたように闇に沈んでろくに視界が利きません。
それは相手も同じだろうと、そろり、そろりとドアに向かって歩を進める警部。
せめて密室状態の場に「奴」とふたりきりという、この最悪の状況だけは打破したいと思っていました。外に、でなければ。そして逃げなければ。
壁に背を這わせ柱に身を潜め様子をうかがうも、思い切り神経を集中させて辺りの気配を探っても、低く轟く雷鳴のほか何も感じられません。
細く伸びる光の筋を見て、この距離なら自分の脚力なら逃げきれるはずだと覚悟を決めた警部。
銃を低く構えた体勢のまま、柱の影から飛び出します。
カンカンと激しく辺りに響き渡る足音と、グングン迫る出口の光。
あと少し。ドアに手が伸び指先が触れる。
思わずホッと胸をなでおろした警部に、一瞬の隙が生まれました。
突然闇から伸びた腕が警部の足を掴みます。
いきなり足元をすくわれ、全力疾走の反動とともに大きく上体が崩れ、そのまま床を転がるように転倒する警部。
衝撃でガバメントが弾き飛ばされ、磨かれた床の上をはるか向こうまで滑っていきました。
しまった!と思うも後の祭り、倒れた拍子に強かに肩を打ち付け痛みに呻く警部でしたが、なんとか唯一の武器を取り戻そうと身を起こします。
同時に、カチッという、金属が擦れる音が耳元のすぐ横で鳴り響きました。
馴染みのある音。それが撃鉄が起こされた音であることは、確認しなくてもわかりました。
気づけば、警部のすぐ後ろに人影がありました。まるで幽霊のように気配を殺し、闇に溶け込んでいます。
闇のベールから突き出た腕には、旧型のワルサーが握られていました。その銃口はまっすぐに、警部の心臓に向けられています。
冷たい刃物のような視線を感じ、警部は思わず後ずさります。
カツン、と高い足音とともに、腕の持ち主が闇の中から姿を表しました。
真っ赤なジャケットが闇の中でもやたらにその存在を主張しています。
警部を見下ろす双眼は冥いままで何の感情もなく、ただひたすらにぎらついていました。
禍々しさを人型にしたようなその姿に、警部はゾッとします。
…どうして、こんな。
ひっきりなしに流れ落ちる冷や汗を拭うことも出来ず、警部は再び身を捩らせ後ずさりました。
なぜ自分がこんな目に合わねばならないのか。
わけも分からず、怯えた視線を目の前の男に向ける警部。
その視線を受け、警部の瞳に浮かぶ色が未知の恐怖に怯えるそれということを理解した男は、ギリリ、と歯を食いしばります。
…アンタが悪ィんだよ。
怒気を孕んだ言葉とともに、男は床に伏した警部の襟首を掴み、ものすごい力で引きずり起こします。
中腰の不安定な格好で宙に釣られる状態となった警部、ぐいと顔を近づけてきた男と目線が合いました。
自分より二回り近くも年下だろうその男。シャンパンのような香水とジタンの紫煙の香り。
凶暴な衝動に仄めく瞳の中に、言い知れぬ痛みを伴った感情がありました。
男は、苦々しく口元を歪め、吐き捨てます。
…アンタが、オレを忘れるから悪ィんだ。
襟元を締め上げる力が一段と強くなり、息苦しさにうめく警部。
薄れる意識の中で、何度も資料の中で出てきたこの男の写真と名前を思い出しました。
神出鬼没、世界を股にかける大泥棒。
男の名は、ルパン三世といいました。
そして、それはかつて、自身が命をかけて追い続けていたただ一人のライバルであったということを、
警部はどうしても思い出せずにいました。


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話は半年ほど前に遡ります。
いつもの様に舞い込んできた手作りの飛び出す予告状を片手に、ルパン逮捕を掲げて単身捜査に繰り出していった警部。
その後、爆発炎上したビルの崩落現場から頭を強打した状態で発見され、病院に担ぎ込まれるという騒ぎがありました。
ビルは、ミサイルや機関銃で武装したヘリによる攻撃により屋上から数階下まで骨組みだけになる勢いで破壊されていました。
そのかろうじて残っていた骨組みに引っかかる形で倒れていた警部。救助された際、うわ言のようにすまねえ、すまねぇと何かに対して詫びていたといいます。
診断の結果、脳挫傷に骨折数カ所と重症だった警部。意識が戻るまでにゆうに2週間はかかりました。
普通の人なら死んでたかもしれない大怪我ではあったものの、持ち前の生命力と体力で地獄の淵から生還した警部でしたが、脳挫傷の影響で記憶混濁が発生し、目が覚めた当初は自分自身の名前も思い出せない状態でした。
数週間の入院とリハビリを受け、不死身の回復力でメキメキと元気を取り戻していく警部でしたが、しかし記憶の回復に難がありました。
警部がルパン三世専任捜査官となったときから今現在までの記憶が、どうしても戻らなかったのです。
特に、ルパンのことは何一つ覚えていませんでした。
ぽっかりとその存在だけが綺麗に警部の記憶から抜け落ちてしまっていたのです。
そしてそれが偶然ではないことが後の捜査によって分かって来ました。
あの日、爆発の現場に警部はルパンを追ってたどり着いていたことが目撃者の証言などから分かって来ました。
いざ逮捕、といつもの様に追いかけっこしていたところ、ルパン一味に敵対するどこぞの組織の武装ヘリが横槍を入れるかのように攻撃を仕掛けてきたことも。
その結果、ビルは大破し、警部とルパンも身を投げ出される格好になりました。
なんとか鉄骨にしがみついた警部でしたが、しかし爆発の際に頭部を瓦礫に強打されて身を起こすことも儘なりません。
同じように鉄骨の端にぶら下がっていたルバンを、それでも助けようと手を伸ばした警部。
そこに無情にもミサイルが突っ込んできて、あと少しで手が届くというところで爆風が二人を盛大に煽りました。
落下するルパンを愕然とした表情で見送る警部。
喉が裂けるほどに呼んだその名は、灼熱の熱風にかき消されました。
助けられなかった。アイツを。ルパンを。
その自責の念が、警部の心を深く傷つけ、自我崩壊の一歩手前まで追いやっていました。
そして警部自身が持つ強い生命力が、生きていくためにルパンとルパンに関わったすべての記憶を強引に抹消することを選んだのでした。
ルパンを忘れることで、警部は生き延びることが出来たのです。
一方、投げ出されたルパンでしたが、そう簡単にくたばるようなタマではありません。
落下の際、スーツがウイングスーツのように飛行用のシートが腕と足からそれぞれ出現し、モモンガみたいに高層ビル街を漂ってなんとか海に出、落ちました。
とはいえ落下死は免れたもののこちらも結構なボロボロぶり。特にアバラを何本かやってしまい、こちらもしばらくアジトで動けないまま時を過ごしておりました。
そして、自分が落下した時、必死の形相で手を伸ばして叫ぶ警部の姿を思い出します。
ああ、オレっち愛されてんなあーとか一人でぐふぐふ喜びむせながら、早く怪我治してお見舞いにいかなきゃァなと回復に勤しむルパン。
そしていざ動けるようになり、相棒たちに呆れられながら見送られつつ警部のいる病院を訪ねました。
当然正面切って乗り込んでいくことはできませんので、天井裏からお邪魔することにしました。
お見舞い用に果物のたくさん詰まったカゴを片手に、天井板をこじ開けて室内に降りてきたルパン。
突然現れた侵入者に、ベッドに座って書類を眺めていた警部は言葉を失いました。
いよーとっつぁん元気してるゥ?オレ様華麗にお見舞いに参上しちゃったよ、と軽快な口調とともに歩み寄るルパンでしたが、
警部の視線に気づいてピタリと歩を止めました。
見たことのない、柔和な笑みを浮かべながらこちらを見ている警部の姿。
そして、次に耳に届いた言葉に愕然としました。
…すみませんねえこんな格好で。ところで…どちらさんでしょうか
聞いたことのない口調。視線。それは、初めて合う人物に対するもので。
何言ってンの、オレだよ、ルパン三世だよ、アンタ散々オレにしてやられて、次こそは逮捕してくれるわーって眉間にしわ寄せて叫んで、て…アンタ…
頭を打ったということは聞いていた。記憶に障害が出ていることも調べがついていた。だが、まさか自分を忘れるとは思っていなかった。
だってオレとアンタは宿命のライバルだろ?何忘れちゃってんだよ!と語気を荒めて詰め寄るルパン。
それでも警部は知らない誰かを見る目でこちらを見ている。おそらく何を言われているのかすら分かっていないのだろう。
動揺するルパン。騒ぎを聞いて病室に向かって人が走ってくる気配。果物カゴを置いたまま再び天井に戻り逃走を図りました。
どやどやと室内に入ってくる警察関係者に医師や看護師。たった今の今までここにルパン三世が出没していた事実は、果物カゴに差し込まれていた予告状が物語っていました。
そして、それを目にしても何の反応も示さない警部に、記憶の欠落の根深さを思い知らされたのでした。

あれから半年ほど経過しました。
ルパンは焦っていました。
予告状の指定日に出向いてしたものの、そこには警部の姿はなく、代理と思しき若造どもが怒号を上げているだけで全くおもしろくありません。
せっかくご招待申し上げたのにどういうことだよ、もう退院してるはずじゃん!ときーきー喚く猿に相棒たちもそれ朝から何度目だよ…とうんざり顔。
しかし赤いののやる気がないと仕事にならないので、次あたりは出てくるんじゃねぇか、大事を取って休養してんだろーぜ。ああ見えてもそこそこ年なんだからよォとか声かけてなだめるわけです。
しかし次の予告も、その次の予告も警部は現れませんでした。
ルパンのいらだちもピークに達し、仲間が止めるのもきかず変装してICPOに乗り込んでいきます。
そして警部が間借りしてる部署に訪れると、警部の姿はなく、机の上にダンボールが積まれ、なにか荷造りをしている様子が。
そして女性職員たちが声を潜めて会話する内容が耳を疑いました。
警部は今、借りているアパートの解約作業に出向いているということ、そして上層部を挨拶回りしていること。
ICPO出向の任を解かれ、日本に帰国すること。
そして、ルパン三世専任捜査官を辞すること。
これだけでも十分ルパンが愕然とするに事足りる内容だったのですが、次に続いた会話の内容が、彼自身の世界を大きく揺るがせました。
…警部ね、もうルパンに対する記憶は戻らないって言われてるのよ。
…思い出せば心が壊れちゃうから、自己防衛で記憶を消しちゃってるんだって。だからもう思い出す可能性は限りなく低いって、ドクターが…
もう思い出すことはない。オレのことを何もかも忘れたまま、オレの前から姿を消す。あの銭形が。
足元が崩れて落下するような衝撃を受け、ふらふらとICPOを出るルパン。その入口であいさつ回りから戻った警部とすれ違いました。
にっこり笑って軽く手を上げて挨拶をする警部。疑う素振りもない。こんな簡単な変装で、いつもなら気配ですぐさまルパァン!と取っ組みかかってくるはずなのに。
棒立ちになりながら去っていくその背中を見送るルパン。
もう思い出すことはない、という女性職員の言葉がいつまでも頭のなかをリフレインしていました。
そして、拳をツメが食い込むくらい握りしめます。
…許さねぇ。
オレを忘れるだなんて、絶対に許さない。
握りしめた拳が赤く染まっていることにすら気づかず、ルパンは内から溢れる仄暗い激情に身を震わせていました。
10年かけて、ここまで来たのに。
それは、失うことに対する恐怖。
そして彼は決心しました。どんな手を使ってでもこの手に取り戻すと自身のプライドに誓ったのです。

ICPO本部を出、帰路についた警部。
天候は生憎の曇り空。遠くで雷鳴が轟いてるのが聞こえます。
早く帰らないと一雨きそうだぜ、と暗くなりつつある空を眺める警部。
建物の間に伸びるこの道も歩き納めかねと少しだけ感慨深く歩くながら、久しぶりの日本に思いを馳せます。
日本に帰ったら、少し休暇をとって挨拶回りにいかなきゃな。ずいぶん長く留守にしちまった古巣の埼玉県警にも声をかけたい。
思えば世界各地を飛び回って過ごしていた。本当に慌ただしい日々だった。
…だが、何のために俺は世界各地を飛び回っていたんだ?
随分と危ないことに巻き込まれた気がする。途方も無い野望と対峙したことも何度もある。一介の警察官が巻き込まれるにはあまりに強大な相手ばかりと戦っていた気がする。
そしていつも、傍らに誰かがいたような…それが誰なのかはどうしても思い出せないのだが。
カラン、と足元に転がっていた空き缶が音を立てて転がりました。
同時に、言いようのない胸騒ぎが警部を襲います。
これは、警鐘でした。
長年荒事に身を置いていた警部の危機察知能力の高さは動物並みの精度を持っていました。
即座に壁を背に辺りを見回す警部。
何か、言い知れぬ殺気を全身に感じます。
たしかにこの辺は治安が良いとは言い切れず、警部もひったくりや暴漢に出くわしたことがある。
まあそいつらは3秒後には地面に沈む運命にあるのですが、そんな生やさしいものではない。これはあまりにドス黒い、純粋な「殺意」。
ほぼ反射的に身を躱す警部。同時に汚れた壁に銃痕が刻まれました。
遅れて届く銃声。砕け散る土壁を浴びつつ、警部は音の主を見遣りました。
建物の屋根の上に赤い影が見えました。
そしてまた銃声が響きます。
転がっていた空き缶が弾かれたように宙を舞いました。
それを目で追うこともなく、警部は細い路地を全力で走り出します。
逃げなければ。
己の本能がそう告げていました。これは、危険だと。
なぜ狙われるのか理解できないまま、警部は走りました。
背後からピッタリとついて離れない殺意を感じたまま、がむしゃらに走りました。

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銃口に追い立てられるように、半ば引きずられる格好で教会内部を進む警部。
段差を登ると、目の前に巨大なレリーフが佇んでいました。
赤子のキリストを抱いた聖母マリアの像。時代を感じさせる老朽化はあるものの、見事に掘られたそれは美しくも迫力があるものでした。
しかしそれに見とれている余裕はありません。
レリーフの前に設置された祭壇を背にし、行き場を失う警部。
その真正面に赤いスーツを翻して佇む男の姿がありました。
雷鳴。その一瞬の光に照らしだされたその顔は、野獣のような目をしていました。
その強い視線に体をこわばらせる警部。
後ずさった衝撃で祭壇の上に倒れ込みます。飾ってあった花器や花、燭台が音を立てて薙ぎ払われます。
同時に男が身を乗り出し、警部の倒れこんだ上体を押さえつけました。手首をぎりぎりと音がするくらいに掴まれ固定されます。
必死にもがいても、目の前の細身の男のどこにこんな力があるのか、万力か何かで押さえつけられているようだと警部は戦慄しました。
潰された花から漂う強い香りに噎せながら、警部は必死にあがきました。
しかし、男の口元が禍々しく三日月を描くのを見た途端、言いようのない恐怖に身がすくみます。
捕まえた。どこか楽しそうに、そして苦々しく男は言いました。
ねえ、いつもオレんとこ捕まえてやるって意気込んでたのにさ、捕まっちゃうってどんな気分?
一層強く手首を握られ、歯を食いしばって耐える警部。それを見下ろす目は口元とは対照的に凍てついた視線を突き刺します。
ほら、怒鳴りなよ。いつもみたいに何しやがるんだ馬鹿野郎って歯剥きだして怒りなよ。ほら、早く、
言葉は徐々に苛立ちを含んでいきました。弧を描いた唇が崩れ、剥きだした歯がぎりぎり音を立てます。
怖い、と感じました。小刻みに体が震えるのを止めることができません。なにより、「分からない」のが恐ろしいと感じました。
どうしてこの男は、自分を。ここまで。
口ごもったまま怯えた視線を向けてくる警部に対し、男のいらだちはピークに達しました。
なんとか言えよ!!と男が叫びました。
ねえ、本当に思い出せないの?オレを忘れるっていうんだ。なにそれ、意味わかんねえ。アンタがオレを忘れるとか絶対許さねぇ。
…しかも、オレのせいでだなんて。
警部の記憶喪失の原因は男にも調べがついていました。それはあの瞬間、この手をつかめなかったということを。
手をつかむことが出来なかった。たったそれだけで心が壊れるほど後悔し、結果こんな事になるだなんて、アンタ本当にお人好しだ。こんな事オレは欠片足りとも望んでなんかなかったのに!
他人をみるような目で見られることがどうしても許せなかった。オレに対して向けられる、怒気と逮捕の期待に満ちた、強い眼光。オレだけのものだった。それなのに。
考えれば考えるほどどん詰まりになっていく。思い出すことはもうない。思い出すということは、それは同時に警部が廃人になることを意味している。それでもオレは。どうしても。
ねえ、どうしようか。男はいっそう顔を警部に近づけ訪ねました。
このままアンタがオレを忘れるというなら、オレ、手段を選ばないわ。このまま無理やり体を押し広げて何度も貫いて、悲鳴をキスで塞いで、身も心も永久に消えない傷を作ってやるよ。
今からでも遅くねぇ、オレを刻み込んでずっとずっと忘れられないように…畜生…
言葉の最後は、なぜか震えて消えました。そもそも何でこんなに忘れられるのが苦しいんだろう。男は考えました。
銭形という人物は、自分が唯一認めたライバルだから。ただそれだけの理由なのか?
男の脳裏に、在りし日の思い出がよぎりました。
振り返ればいつだって追いかけてくる見慣れた姿がありました。
必ず追ってくる、というのは、いつしか安堵感に変わりました。
それは一種の信頼でした。そして願いでもありました。
このままずっと追ってきてくれますようにという、あまりにも歪な願いでした。
それを男は、10年以上かけて実現してきたのです。
そしてその思いが、一体何であったのかを、彼は痛いほどに理解していました。
ふと、手首を締め付けていた力が緩みました。
異変にはっとした警部は、男を見上げました。
なァ、とっつぁん。10年だよ。
ぽつり、と男が口を開きました。
アンタがオレ専任になった時から今まで10年、いやそれ以上。ずうっとどうしたらアンタが追ってきてくれるかって考えてさ。
少しずついたぶって、引っ掻いて傷をつけて、アンタが俺のことだけ考えるように、オレだけを追いかけ続けてくれるように、そうやって染め上げたんだ、オレ色に。
それなのにアンタ、また真っ白に戻っちまったんだろ。
顔を伏せたまま、先ほどとは打って変わって弱々しい言葉を発する男。心做しか幼さを感じるその口調に、警部は一瞬どこかで聞き覚えがあったように思いました。
10年だぜ。オレ様なけなしの10年が全部パーとか、ルパン三世の名が廃らァ。狙ったものは必ず手に入れる、そいつがオレのポリシーだというのに。
不意に途切れた男の声。そして自嘲するかのように喉の奥を鳴らします。
一番欲しいものだけは、永久に手に入らないと来たもんだ…
ひとしきり自身を嗤う男。その姿がどことなく痛々しく見え、警部は眉をひそめます。
なんでこんな目にあったというのに、目の前の男に対し何か声をかけたいと思ったのだろう。自身にもわからないまま警部は戸惑いました。
ただ、体が覚えていると感じました。こういう時、かつての自分はどう行動していたのかということを。
ねえ、どうせ忘れちまうんだから言うよ。
ほとんど吐息のような声で男が言いました。
オレさ、アンタのことが好きだったんだ。出会った時からきっと、ずっと。
永久に言うつもりじゃなかった。この思いは墓場まで一人持っていくのだと思っていた。
アンタに追われるだけで幸せだったんだ。ちっぽけだろ、天下の大泥棒の願いがこんなものだなんて、アンタは気づきもしなかったろう?
激情に任せ、警部を抱きしめる男。
頬に温かいものがあたりました。それが涙だと警部は気づきました。
泣いてんのか、と思わず声をかける警部。男は警部の胸元に顔を埋めたまま首を振りました。
ちがうやい、勝手にオレを忘れた薄情者のせいで泣いたりなんかしてねーやい。
まるで駄々をこねる子供のような言い草に、警部は苦笑します。
そして、かつてそうしてきたように男の頭に手を伸ばしました。
そしてぽんぽんと慰めるように軽く叩きます。
もう泣くな、大丈夫だから、と声をかけながら。
目を真っ赤にした男が、恐る恐る顔を上げました。
そして再び顔をくしゃくしゃにしながらなにが大丈夫なんだヨォ、と異議を訴えます。
問題は何一つ解決していない。警部は目の前の男を思い出すことはない。
警部は少し考え、こういうのはどうだ、と男に声をかけました。
鼻水すすりながら再び顔を上げてくる男。
もう一度10年かければいいんじゃねぇか。
10年かけて築いたというなら、もう一度10年かければ同じように再構築できるだろ。
しっかりと目を見て言い切った警部。男も反射的にコクンと頷きました。
まっすぐに自分を見つめるその瞳は、以前と何ら変わりのない輝きを持っていました。
もう一度、ゼロから始めようじゃねえか。
俺は、今からお前ェを決して忘れはしない。
そこに嘘偽りがないことを、男は長年の付き合いから身にしみて理解してました。
…ああ、本当にアンタはどこまでもお人好しで、
警部は続けました。その代わりお前ェが望むならもう一度俺ァお前を追う。俺は警察官だから、と。
だから心して待ってろ。必ず戻るから、もう一度正々堂々と戦え、ルパン、と。
だから泣くな!とバンバン背中を叩かれ、男は、ルパンは思わずげほごほとむせました。
その力強さが、どうしようもなく懐かしくて、嬉しいと感じてしまって。
名前を呼ばれたことがどんな奇跡よりも尊いことのように思えてしまって。
だから離れられないんだよ、アンタから…と警部に聞こえないように独り言ちました。


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まてぇ!といういつもの怒号を背にしながらルパンは走り続けていました。
少しばかり線が細くなり、髪に白いものが混じった警部でしたがその脚力は俄然健在で、油断するとすぐに肩をとっ捕まれそうになり、ルパンは慌てます。
あれから10年の月日が立っていました。
一度専任を退いた警部は一旦日本に戻り、警視庁の第一線で数年活躍した後、再びルパン三世専任捜査官に専願を出しました。
そして現在に至るまで、一日たりとも休まず脇目も振らず、ルパン三世その人だけを追っているのです。
約束を果たすためじゃない、多分そういう運命だったのだろう。一旦失われた日々を埋めるかのように、再び始まった10年で二人は時に共闘し、時に助けあい、時に命をかけて戦ったりもしました。
上書きするはずだった10年は、結局は新しい10年の記憶としてしっかりと警部の中に根付きました。
記憶は戻らなかったけど、新しく費やされた10年で、結局は以前と同じようにルパンを見て、ルパンだけを追う。
離れられないのだと思いました。これは我々に課せられた宿命なのだろうと。いつかどちらかが、又はどちらもが斃れるその瞬間まで、きっと。
突然、ルパンが立ち止まりました。
いきなり立ち止まられ、そのままブレーキも効かず赤いジャケットにぶち当たる警部。
いてて…なんでぇ止まるなら止まるといいやがれ、とぶーたれる警部。
しかし、ルパンは遠くを眺めたまま微動だにしません。
同じ方向をみると、そこにはいつぞやの古びた教会があの時と同じようにひっそりと佇んでいました。
おもえば、この場所から新しい10年が始まったんだ。
全くお前ェと付き合ってると時間立つのが早くていけねぇな!と豪快にガッハッハ笑う警部。
と、突然ルパンに力いっぱい抱きしめられました。
なんだなんの嫌がらせだ、はなせこの、ともがく警部に構わず、ありったけの思いを込めて抱きしめるルパン。
ねえ、好きだよ。アンタはきっと最期まで気づかないだろうけど。
声には出さず、じたばたし続ける警部にしがみついたまま、油断すると決壊しそうな涙腺を必死になって閉めるルパンの姿がそこにありました。

2013/02/04(Mon) 01:23:38 | ルパン三世系
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二次三次問わずオヤジジジィ大好物な困った人です。更に流血と被虐、縛りに萌える駄目な人です。実に注意。
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